ご家族やご友人が注意すべきサイン
AUD(アルコール使用症/アルコール使用障害)の患者さんは「やめようと思えばいつでもやめられる」「このぐらい大したことはない」など、自分の状況を甘く見たり、飲酒で生じている問題を認めないことがあります。そういったケースでは、ご家族やご友人が異変に気が付いて受診を促すことが少なくありません。以下のようなサインが見られたら注意が必要です。
身近な人が初期症状に気づくことのできるサイン例
- 飲むペースが速くなった
- 飲む頻度が多い、はしご酒をする
- 飲まないと寝付けない
- 迎え酒、寝酒...理由をつけていつも飲む
- お酒の度数があがる
- 飲むと暴言や暴力がある
- 飲酒について約束していたことが守れない、飲酒について嘘をつくようになる
- 飲酒していないとイライラするようになる
- 飲酒の翌日に手が震えている 等
このような兆候がみられたら、一度ご本人に以下のスクリーニングテストでチェックしてもらうことをおすすめします。
アルコール使用障害スクリーニングテスト(AUDIT)のご紹介
AUDIT(オーディット)は、WHOによって作成されたアルコール健康問題を検出するためのスクリーニングテストです。このテストによって、現在のお酒を飲む習慣の危険度を客観的に見つめることができます。テストは、お酒を飲む量や頻度、生活への影響など10項目からなり、各項目の合計点(0点〜40点)で判定します。8点〜14点が「減酒指導の対象」、15点以上が「AUD(アルコール使用症/アルコール使用障害)のうちアルコール依存症の疑い」とし、医療機関を受診することが推奨されています。
気になる方はぜひチェックしてみましょう。
接し方のポイント
まずは、ご家族やご友人がご本人とのコミュニケーションを深めることで、「お酒をやめたい」と言い出せるような関係を築くことが大切です。
ここでは、AUD(アルコール使用症/アルコール使用障害)が疑われるご本人とそのご家族を例に、接し方のポイントをご紹介します。
1.普段どおりの挨拶を意識する
酔ったご本人を前に指摘したくなる気持ちはありますが、まずは「お帰りなさい」「おはよう」など普段どおりの挨拶を意識します。
2.酔っていない時に話しをする
飲酒や医療機関の受診について話すときは、ご本人が酔っていない時にしましょう。ご本人が酔っているときは、イライラしたり気が大きくなりがちのため、トラブルに発展することがあります。
3.I(アイ)メッセージを伝える
相手に思いを伝える際には、「私」を主語にすることが大切です。「あなた」を主語にすると、どうしても相手を責めるような口調になりやすく、言われた相手は攻撃されたと感じてしまいます。
たとえば、「また飲んでるの?『あなたは』家族のことを何も考えていないでしょ」といった言い方は、相手を追い詰めてしまうかもしれません。これを「私」を主語にした表現に変えることで、印象が大きく変わります。たとえば、「『私は』、一緒に過ごせる時間が減っていくのがさみしい」と伝えることで、相手も気持ちを受け取りやすくなります。
4.イネイブリングに注意
ご家族は、イネイブリングと呼ばれる行動を避けることが大切です。イネイブリングとは、ご本人の世話を焼いたり、飲酒による失敗を肩代わりしてしまうような行動を指します。
具体的には、以下のような行動が該当します。
- ご本人の欠勤や遅刻について、代わりに職場へ連絡して謝罪する
- 飲酒後の後片付けを代わりに行う
- 飲酒のツケや借金を肩代わりする
このような対応を続けると、ご本人が自分自身の問題に気づきにくくなり、結果として飲酒問題の解決が遅れてしまう可能性があります。
5.具体的かつ簡潔に話す
ご本人に何かを伝える際は、「お酒を買ってくるのをやめようと思う」「会社に遅刻するときに代わりに電話をするのをやめるね」など具体的かつ簡潔な言葉で伝えます。
6.相手を思いやる一言を忘れずに
「私はあなたの身体を心配しているよ」など、ご本人を思いやる言葉も添えましょう。つい小言を言ったり説教をしたくなるかもしれませんが、正論を押し付けたり指導的な態度をとったりすると、現実逃避のためにかえってアルコールに依存してしまう可能性があります。
7.良いことも伝える
「今日は穏やかに過ごせたね」など具体的に良かったところも伝えます。
8.自分の時間を楽しく過ごす
ご家族は、患者さんご本人のことで頭が一杯になり、自分の生活や感情を後回しにしてしまうことがあります。しかし、AUD(アルコール使用症/アルコール使用障害)は、ご本人が自ら自分自身の問題に向き合わなければ回復しづらい病気です。そのため、家族がすべてを抱え込まず、「これは本人の問題だ」と割り切ることも必要です。
たとえご家族が飲酒問題を抱えていても、自分の人生を歩み、自分の時間を楽しく過ごすことが、回復の支えになります。たとえば、趣味の時間を持つ、安心して話せる相手を見つける、自助グループに参加するなど、ご自身の心のケアも大切にしてください。
適切な距離が取れるようになると、自分自身の生活や気持ちに余裕が生まれ、落ち着いて問題に対処できるようになります。
自助グループ
うまく問題に対処できなかったことを後悔したり、ご自身を責めたりする必要はありません。大切なご家族が病気になってしまったら、誰もが戸惑い、心配のあまり過度に世話を焼いたり、小言を言ったりしてしまうことは自然な反応です。このような状態の時は、ご家族も精神的なサポートを必要としています。同じ問題を抱える人同士が集まり、失敗や後悔、苦しい気持ちを正直に話す場所があると安心です。こうした自助グループは、ご本人と一緒に参加できるものや、ご家族だけが参加するものなどさまざまです。いくつかの自助グループに参加し、ご自身に合ったところを選ばれると良いでしょう。
主な自助グループのご紹介
- Al-Anonアラノン家族グループ
- アルコール依存症のご本人の家族や友人が集まり、支え合うためのグループです。
全国各地でミーティングが行われています。 - 公益社団法人 全日本断酒連盟
- 全国各地で行われている断酒例会には家族も参加が可能です。
利用可能な社会的支援(相談窓口)
- お住まいの地域の精神保健福祉センター
- 全国の精神保健福祉センター|厚生労働省
- 各都道府県や政令指定都市の精神保健福祉センターに、アルコールに関する相談窓口があります。
- 保健所
- 保健所所管区域案内|厚生労働省
- 地域の保健所でも、アルコールに関する相談を受けており、治療支援などを行っています。
お近くの医療機関へ
以下のページからアルコールに関するお悩みを相談できる病院を検索することができます。ご本人が受診に前向きでない場合でも、ご家族だけで専門機関に相談することができます。ご家族が状況を整理し、適切な対応を学ぶことは、ご本人の回復を支える第一歩です。気になる方はぜひチェックしてみてください。
監修者プロフィール
湯本 洋介先生(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター精神科)
精神保健指定医、精神科専門医・指導医。2006年福井大学医学部医学科卒業。東京都立松沢病院にて精神科専門研修を修了。松沢病院に勤務時より、依存症医療に携わる。2014年より、独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センターでアルコール依存症を中心に診療に従事。2017年に開設された減酒外来も担当している。